不妊治療の集落

 北部Ha Nam省Binh Luc県An My村に非常に珍しい集落がある。そこは300年もの歴史を誇る不妊治療の集落として有名で、全国から不妊症に悩む何千人もの人々が訪れる。そして、その多くの願いが叶えられているのだ。
 この集落で不妊治療が始まったのは300年前にさかのぼる。Ha Tay省のDieuという人物は、当時の役人試験に合格することができなかったためその道を諦め、この集落へやって来て女性の滋養薬の調合とその教育を始めた。彼は産婆であったSoiという女性と結婚し、夫婦で力を合わせ、不妊治療の伝統的な民間療法の薬の研究と発明に力を注いだ。
 An Thaiと呼ばれるその集落の入り組んだ路地に入ると多くの家が門の前に“不妊治療の名医”という看板を掲げていた。An My村の人民委員会で紹介された、腕が良く、集落で患者が最も多いというNguyen Thi Hau医師(64歳)のところへ行ってみた。Hau医師の診療所は何百年も経った建物であるにもかかわらず、中は清潔で、患者が入院するための部屋があり、18〜40歳の女性たちが10人ほど寝ていた。彼女たちはHau医師の噂を聞きここを訪れたのだという。中には南部Kien Giang省から来たという人もいた。私が彼女たちと話をしていると1台の車が門の前で急ブレーキをかけ止まった。降りてきたのは金髪のすらりと背の高いきれいな女性だった。ハノイで1、2を争う有名なファッションショップのオーナーで、他の女性と同じように、子供が欲しくてここへやって来たのだった。Hau医師は彼女をすぐに診察室に通すと診察と治療を行った。使われるのはHau医師の片手と1包の家伝の薬だけだ。40年の経験を持つ医師の敏感な指先は、女性の陰部に挿入されると、患者の病状を伝え、処方すべき薬を決めることができるのだ。卵巣には卵子が残っているか、卵管が詰まっていないか、子宮口が狭くないか、嚢腫なのか筋腫なのか、全てわかるという。なぜこのような“超感覚”を得ることができたのだろうか。Hau医師はお歯黒に染めた歯を覗かせて「どうってことはないわよ、慣れだけよ」と笑った。実際、指での触診による診断は患者が持参する病院の診断書の内容と全く違いがない。
 Hau医師は12歳で結婚し、15歳で夫の家に入った。姑は、古くから不妊治療薬の調合で名高い家系、Soi氏の6代目の子孫だった。Hau医師は姑に付いて指の訓練を始めた。28歳のとき、国から名医として認定証が与えられ、姑からも正式に医師として認められた。しかし医師とは名ばかりで、しばらくの間は助手に過ぎず、姑が亡くなって初めて自分の名前を正式に看板に記すことができた。「年間何人くらいを診るのですか」と聞くと、「1,800〜2,000人くらいです」との答えが返ってきた。治療の効果については 「卵巣に卵子が残っている女性、つまり受精の可能性が残されている場合ですね。治療が初めての場合は妊娠の可能性は60%、2回目になると25%です。その2回で結果が得られなければ、3回目の治療には1%しか希望が持てません」との回答だった。家の中央に掛けられた大きな家計図には、Hau医師の家系で引き受けた患者の成功率は85%と記されていた。
 昨年10月16日、ハノイ在住のNguyen Minh Huongさん(41歳)から、Hau医師宛に感謝の手紙が届いた。彼女は1989年に結婚したが、子供ができず、やっと妊娠したものの子宮外妊娠だったため、卵管を切断しなければならなかった。何年も医者という医者を尋ねて回ったが、子宝に恵まれることはなかった。ハノイのC病院での検査結果報告書には“卵管閉塞のため妊娠の可能性はなし”と書かれていた。知人の紹介で、彼女は絶望感を漂わせHau医師のところへやって来た。後継ぎができないことが原因で、夫が家に居つかなくなったのだ。昨年の1月、Hau医師の薬が効き、彼女はかわいい男児を出産した。その子は“戦勝”という意味のChien Thangと名づけられた。子供の誕生によって夫が戻ってきたからだ。
 Hau医師は治療が成功して生まれた子供たちの写真を見せてくれた。母親たちが感謝の手紙や贈り物とともに送ってきたものだ。また、厚い台帳には氏名、年月日、治療回数、薬処方量、効果、出産年月日など診療記録が細かく記入されていた。その中には省の役人、知識階級、社会的地位の高い人、大学教授、そして医者の妻たちの名前もあった。結婚してから5年も10年も子供ができない夫婦や、1人目ができてもその後できる兆しがない夫婦、産婦人科の病院に見放された夫婦もいる。Hau医師は男性の不妊治療も行うが、病院の検査結果報告書に基づき精子を増やす薬を処方するだけだ。Lao Cai省在住のVu Dinh Phucさん(37歳)は、病院の検査で精子が通常の20%しかなく不妊症であることがわかり、ひどく落ち込んでいた。Hau医師の薬を3塊飲んだ後、検査したところ精液中の精子の量は70%にも増えていた。彼は安心して結婚し、子供をもうけた。
 An My村のNguyen Cong Tich村長によると、村内には多くの集落があるが、この伝統的な職業が伝わっているのはAn Thaiだけで、全国でも恐らく不妊治療の集落というのは唯一無二であろうとのことだ。以前省議会でこの集落の治療の効果について調査を行おうと試みたが、家伝の薬の調合について、一家族たりとも情報を提供してくれなかったため、分析データや鑑定が納得のいくものにはならなかったのだ。現在、An Thaiでは60家族がこの職業を営んでおり、うち40家族が政府からの許可を受けている。経験が浅かったり、名が知られていなかったりといった、薬の入った鞄を抱え往診をしている者たちはこれに含まれていない。全てはSoi氏から始まり、古くから家系の繋がりがある。現在この集落を“統治”しているのは“Nguyen”“Tong”“Thai”の3家系だ。これらの60家族は村の古伝民族医学会支部の管理下にあるが、Hau医師は副支部長である。また、支部長は長老のNguyen Thi Nhan医師(75歳)で、2人とも保健省から国民の健康維持に寄与したとして勲章を授与されている。
 この集落の特徴は、跡継ぎは常に娘か嫁で、息子には伝授されない。これは、Soi氏とDieu氏が夫婦になった頃からの伝統的な習慣による。この職業は女性にのみ許された特権なのだ。ベトナムでは男女が睦まじくするのは不道徳とされる風習があり、男性はこのような場を避けるべきで、女性のみが女性を診察するに相応しいとされている。それゆえに、集落の名医の1人、Que医師の息子は村の診療所の副所長で、この職業に誇りを持ち、医師免許を持っているにもかかわらず、診察室の外で妻と一緒に脈を取ったり処方箋を記入したり、衛生管理をしたりという雑用しかさせてもらえないのだ。
 不妊症の患者はこの集落を訪れるとき、子供ができるならいくら払っても良いと考えている。薬代は、あらゆる階層の人々にとって受け入れられる金額である。1塊が約40万ドン(約26.7ドル)で15〜20日分、初回の治療では2塊飲むことになる。効果が現れなかった場合には3カ月後、2回目の治療で1〜2塊、3回目では1塊だけになる。診察料は1日2回、3万5,000ドン(約2.3ドル)で、この集落の名医たちはどこも同じ診察スタイルをとっているようだ。初代から伝えられているものの、長い時を経て調合が変えられてきたため、部外者には同じなのか違うのかまるでわからない。これは秘密で、知ろうとするのは至難の業だ。Hau医師の家族は「自分たちで薬の原料を探してきて調合するんですよ。患者さん1人ひとりに合わせて量を変えるんです」と話してくれた。
 An Thaiで有名な名医の診察室を数箇所見学させてもらい、長い入院治療が必要なため、ここで入院生活を送っている患者の女性たちにも会った。彼女たちは楽しそうでもあり、悲しそうでもあった。北部の寒い冬の間、彼女たちはお互いに助け合いながら生活し、そして出産し、母親になることを夢見て励まし合っていた。彼女たちの神聖な願いが叶うよう祈るばかりである。

(Tuoi Tre)

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