死神から子供を救う女性

  Gie Trieng族に古くから伝わる悪習がある。出産後に母親が死亡した場合、生まれた子供に悪霊が乗り移っているとして、母親と共に赤ん坊を生き埋めにするというものだ。その悪習にたった1人で立ち向かっている女性がいる。Kontum省Dac Glay県Dac Mon村Mang Lonに住む女性Y Chayさんだ。彼女はこれまでに数多くの子供を死神の手から救ってきた。
 Y Chayさんは木箱から1枚の写真を取り出し、「この子はA Trinhといって、今はDac Glay県の少数民族中学の2年生さ。この子を連れて帰った時は、生き延びるとは誰も思わなかったんだよ」と言った。A Trinh君は同省Ngoc Hoi県Dac Duc村のA RangさんとY Ngheさんの間に生まれた。A Trinh君が生まれて2日後、不幸にも祖母が重い病気のために亡くなった。A Trinh君の祖父は頑なに「A RangとY Ngheは結婚後1年は出産禁止という村の掟を破った。だからA Trinhが悪霊となって婆さんを殺したんじゃ」と言い張り、復讐の気持ちと新たな災いを恐れて「どうしてもA Trinhを殺さなければならない」と主張した。集落の年寄りが話し合った結果、A RangさんとY Ngheさん夫婦を離婚させ、さらにA Trinh君の命を絶つか山に捨て、獣の餌にすることを村長に建議するという案が提示された。
 それを聞いた父親のA Rangさんは愛する我が子を抱きかかえ、村を出た。しかし、2人はどこへ行っても相手にされず、追い払われた。ある日の午後訪れたDac Glay県Dac Mon村の長屋に泊めてもらうことができた。ちょうどその日、Y Chayさんがお産の介助をするためにDac Mon村に来ていた。父子の話を聞いて長屋へ来た彼女はA Trinh君を見るなり、自分に全て任せるよう父親を説得した。A Trinh君はその日まで1週間以上も、父親が芋を噛み砕いた汁しか与えられておらず、顔は土色に変色し、声を出して泣くこともできない状態だったのだ。A Trinh君を家に連れて帰ったY Chayさんはミルクを求めて集落中を駆け回ったが、どこへ行っても相手にされず、門前払いを食らうだけであった。そこで彼女は家で最も高価な財産である牛を売り、約100万ドン(約66.7ドル)のお金を手に入れ、A Trinh君を育てるためのミルクとベビー用品を買った。
 私たちが集落の端にあるY Chayさんの家を訪れた時、現在は中学校の寄宿舎で生活をしているA Trinh君が帰省していた。彼女は「この子を連れてきたばかりの時は、集落の連中は悪霊だと言って怖がっていたけどね、今じゃこの子は集落中、いや県中の誇りだよ。この辺りでは中学校に行ける子供は珍しいからね」と目を輝かせ息子の話をした。
 座って話をしていると、突然4歳くらいの丸々とした赤茶けた髪の女の子がY Chayさんの腕の中に転がり込んできて、空腹を訴えた。「末っ子のU Niだよ」と言いながら急いで食べ物を用意する様子は本当に微笑ましかった。1999年6月4日、同じ集落に住んでいたY SuongさんはU Niちゃんを産んだ翌日、破傷風のために亡くなった。そのため集落の人々はU Niちゃんに悪霊が宿っていると恐れ、「赤ん坊の首をひねって母親と一緒に埋めるか、山に捨てて獣の餌にしなければいけない」と父親のA Banさんに詰め寄った。我が子があまりにも不憫でならなかったが、村の掟には逆らえず、結局、A Banさんは山に捨てることに同意した。U Niちゃんの命が悪習に奪われようとしていたその時、知らせを聞き駆けつけたY Chayさんは「その子を私に渡さないなら、殺人罪で県の警察に訴えるよ」と脅し、彼らは最終的には悪霊を恐れないこの女性に譲歩せざるを得なかった。こうして、U NiちゃんはY Chayさんの娘になったのだ。
 私たちが3番目の子供、Y O Sinちゃんの白い肌を見て目を丸くしていると、彼女は笑って「この子はKinh族だからね、色白なんだよ」と言った。
 Dac Ba農林所の従業員Tさんは、行きずりの男性と恋に落ちた。しかし、Tさんが妊娠に気づいたとき、不運にもその男性とは音信不通になっていた。1995年2月16日、Tさんの陣痛が始まり、Y Chayさんに介助され、Y O Sinちゃんが産声を上げた。しかし、Tさんは父親のいない我が子が不憫でならず、行きずりの恋や、自分の境遇を恨み、赤ん坊を川に投げ捨てる決心をしたのだった。これを悟ったY Chayさんはその赤ん坊を我が子として育てることに決め、自分の懐に抱え連れて帰った。その時も、彼女は長年家計を支えてきた愛用のミシンと最後の1頭となった牛を売り、Y O Sinちゃんのためにミルクを買った。初め、彼女は赤ん坊にLuom(“拾う”の意)という名前をつけていたが、県の婦人協会のメンバーが彼女の家を訪れた時、日本のドラマに出てくる“おしん”のように立派な子に育つよう、O Sinと名づけてはどうかというアイディアにならった。
 「もう1人の子は?」と聞くと、Y Chayさんは悲しみに沈んだ様子で「やっと私のことを“Me”(お母さん)と呼べるようになったと思ったら死んじゃったんだよ」と目を潤ませた。Y O Sinちゃんの母親と同様にDac Long農林所の従業員で未婚の母だったY Bさんは、出産後2週間で亡くなった。やはり、母親と一緒に埋められようとしていた赤ん坊を、Y Chayさんは手遅れになる前に救うことができたのだ。しかし、それから1年ほどすると、亡くなった母親から感染していた皮膚病が発病し、どうにかして助けたいと何軒もの医者を訪ねて回ったものの結局死んでしまった。
 悪霊を恐れず、古くからの悪習に立ち向かっていたY Chayさんの家族は村八分にされ続け、集落の端のほうにひっそりと暮らしていた。Y Chaiさんは1947年生まれで、連絡員からボランティア活動、最前線での活動まで革命運動の参加経験を持つ。彼女の兄は3人とも抗米救国戦争の犠牲となった。結婚して、1度出産しているものの、その子を育てる望みは叶えられなかった。恐らくそれも、彼女が捨てられた子供に愛を注ぐ理由のひとつであろう。彼女は自分が介助して母子共に無事出産できた人々の名前を連ねたリストを見せながら、「私は手を貸すだけ。お金なんか取らないよ」と言う。彼女が出産の介助を始めたのは偶然だった。助産婦の仕事を何回か目にする機会があったが、ある日、産婦が難産に苦しんでいるのを不憫に思い居ても立ってもいられず手を貸したことがきっかけだった。それ以来、彼女は臨時の助産婦だが腕がいいと遠く人里離れた集落で有名になった。
 死亡した母親と共に埋められた子供の数について、この地域の人々に聞いて回ったが、その数は全く解らなかった。悪霊と呼ばれる赤ん坊を救い連れて帰って育てようなどという者は、Y Chayさん以外には1人もいなかった。Dac Mon村のKring K’Hong Nha村長は、新しい墓の辺りで息絶え絶えに泣く赤ん坊の声が聞こえたが助けられなかったことがあると告白した。Y Chayさんの夫A Ngutさんでさえ、悪霊と集落から除け者にされることを恐れて何度妻を見捨てようと思ったことかわからないという。しかし結局、彼もY Chayさんの熱意から、妻と共に“悪霊”を我が子とすることを受け入れるようになった。
 Y Chayさんは、愛情に満ち溢れた母親、そして勇敢で人道的な女性としてこれからも子供達を守り続けていくだろう。

(Tuoi Tre)

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