ベトナムの鉄道運転士、その人生

 ベトナムで20年という長きに渡り列車の運転士を務めてきたSai Gon鉄道機械社副社長Doan Quang Tan氏は、鉄道運転士は多くの基礎学習と実務経験を積んではじめて、数千人の命を預かる運転席に座ることができるのだと教えてくれた。

 運転技術のみならず、機械などの学習も含め28カ月間の専門課程を終えた後、さらに6カ月間の実習に臨む。この実習期間は車内で先輩運転士たちに倣い実践を重ねる。この実習を経て、試験に合格し、3万kmの安全走行を達成して初めて、彼らは運転補助員1の資格が認められるのである。その後運転補助員2へと昇格し、正式な運転士としては最もランクの低い1等運転士の資格を得るまでには平均5年、最高の3等を得るには、さらに多くの年月を要し、数十万kmもの安全走行が求められる。そのため、3等運転士の資格を持つ人間は極めて少ない。


■ベトナム唯一の鉄道

 1975年以降も、依然として列車の速度は遅く、当時の運転手は今以上に過酷な環境で運転を強いられた。蒸し風呂のような暑さの運転室で古ぼけた機器を操作し、何もかもが不足した状況の中で疲労困ぱいしながら業務を遂行していた。密輸、泥棒、無賃乗車の人間が、我がままに列車を止めようとすることも日常茶飯事で、事故を併発することも多かった。

 ベトナムの鉄道は最近、走行速度を上げるために列車の先頭車輌や車体を一新した。また牽引力が足りず、山間部の上り坂で事故を頻発していた400〜500馬力の旧型エンジンから、ベルギーや中国製の1,800〜1,900馬力の新型エンジンに交換した。これにより速度は少しずつ改善され、所要72時間だったハノイ−ホーチミン間は、60時間、48時間、46時間、44時間、40時間と徐々に短縮され、現在では29時間で2都市を結んでいる。しかし車体は新しくなっても、線路は狭く古いままで、数百ものつり橋を含む危険箇所の総延長は20万mにも及ぶ。

 この道30年のTung氏とその同僚は、ベトナムの鉄道の変遷とともに運転士人生を歩んできた。設備も整ったハイスピードの新型列車を運転できる喜びを感じながらも、彼らは運転中の不安が消えることはないと口を揃える。22年間運転士を続け、3等の資格持つNguyen Manh Hung氏は、列車への投石や線路上の置石などのいたずらは後を絶たないと言う。「車内の心配はもとより、車外の無神経な者による悪質ないたずらにも気をつけねばなりません。これほど運転士に精神的なプレッシャーを強いる国が他にあるでしょうか」と話す。Hung氏は、無神経に線路を横切った人々を避けきれず轢いてしまい、その遺族から逆恨みされ列車に石を投げられることもあると言う。こういった“復讐”で脱線事故に遭遇した運転手もいる。

 自動車の運転手に比べ、鉄道の運転手への要求はより厳しい。ハンドルを握る前には医者の健康診断が義務づけられており、もし健康状態が悪ければ乗務できない。乗務停止を何度も繰り返していれば、退職するしか道はない。通常、列車には運転士と運転補助員の2名が乗るが、休息のために互いの仕事を交代で務めることはできない。法律で退職年齢は55歳と定められているが、体調を崩し定年を前に退職する人も多いという。


■過去の列車事故

 鉄道は比較的安全な乗り物だとされている。しかし、事故が多発しているのも事実だ。1980年代から運転士を務める人々は、1982年にDau Giayで起きた悲惨な脱線事故を忘れることができないという。

 列車は多くの人々と荷物を乗せ、Nha Trangからホーチミン市に向け走行していた。急な下り坂となっているDau Giayに来た所で突然、列車のブレーキがきかなくなった。列車は時速100km以上に加速し、カーブを曲がりきれず脱線した。車両は四方に投げ出され、先頭車輌は逆さまにひっくり返った。この事故でDau Truong Toa運転士、Pham Duy Hanh運転補助員、Tran Giao Chi実習生など200名の乗員・乗客が死亡した。身分証明書を携帯していなかった被害者は、家族や親戚から確認されないまま葬られた。それ以来、ここを通過する列車は、犠牲者を悼んで汽笛を鳴らすようになった。

 原因は何であれ、運転手たちは自身が運転した列車が事故に遭い、犠牲となった人たちのことで心を痛めている。1981年から統一鉄道の運転手を務め、3等の資格を持つPham Hung Hieu運転士も、数十名の命を奪ってしまった経験がある。運転士の過失ではなかったが、何度も仕事を辞めようかと思ったという。最近もホーチミン市へ向かう途中で5人の若者を轢いた。若者たちが線路上で眠り込み、それを見つけ汽笛を鳴らし急ブレーキをかけたが、手遅れだったのだ。

 この職に就いている誰もが、運転士が原因で事故が起こる可能性を認める。わずかな気の緩みや馴れ合いが、悲惨な事故につながる。しかし実際の事故は被害者側に過失があることが圧倒的に多い。最近では線路近くに居住する人が増えたため、その地域を通過する際に細心の注意が必要になった。事故のほとんどはこのような場所で発生し、被害者の多くが不注意に線路を横切った人々なのである。

 Sai Gon鉄道機械社だけで、これまでに少なくとも10人の運転士が業務中に亡くなっている。そのうち数件は運転士の過失であったが、ほとんどは走行中の外的な原因により引き起こされたものだ。最近ではPhan Xuan Trang運転士とTran Van Ut Em運転補助員が乗った列車がQuang Ngaiで脱線、車両から荷物、乗客用の食事まで、投げ出される事故となった。線路の隙間に石が詰め込まれていたのである。Trang運転士は即死、運転補助員は負傷した。

 それから幾日も経たないうちに別の事故でTran Dinh Thang運転士が亡くなった。Thang氏の運転する列車S4がSuoi Cat付近で、浸水して破壊された線路を通過したのである。Thang氏は危険を察しブレーキを踏んだが、間に合わず線路の破損部分を通過、壊れた線路が列車の重みで持ち上がり、先頭車輌のガラス部分を突き破り、そのままThang氏の首を貫いた。運転補助員や乗客は無事で、ただ列車の到着時刻が遅れただけだった。多くの家族が安堵と喜びで笑顔を見せる中、一家族だけが悲しみに打ちひしがれていた。
 それでも列車は走りつづける。今日もまた、明日もまた、汽笛の音とともに。


(Tuoi Tre Chu Nhat)


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