ベトナムの大手ベーカリーであるDcu Phat社の独特な経営方針は大変興味深い。銀行から借金をせず、宣伝や安売りの類を一切行わないというものである。現在、ベトナム国内に18のチェーン店を持つ同社のKao Sieu Luc社長は「全ての店舗は誰のものでもなく、会社の財産です」と語る。また、Luc氏は外国の同業他社がベトナム市場に参入することを強く望んでいるという。強い信念と自信を持って経営を展開するLuc氏に話を聞いた。 Q: 「Duc Phat」という社名は奥様の名に由来するそうですが、それ以外にも何か意味があるのでしょうか? A: この名は私にとって大変馴染み深いものであると同時に、私の人生哲学でもあります。妻のフルネームは「Du Duc Phat」といいます。この名には「徳が備わるものは、必ず成功する」という意味が込められています。これは全ての事柄に通じることで、仕事も例外ではないと思います。特にベトナムの飲食業では、この観念なしに成功することはありません。自分に徳が備わっていれば、成功は自ずとやってくるのです。 男性の成功には、男性が見落としがちな細かい点にも気付き、気転がきく女性の支えが欠かせないと昔から言われます。妻の協力があったからこそ、現在の弊社があると思います。 Q: 毎日忙しい生活を送られていると思いますが、子育てや家事についてどのようにお考えですか? 奥様の手料理はいかがですか? A: 子育ても含め、家事全般を夫婦2人で協力してやっています。食事は、妻よりも私が作ることの方が多いですね(笑)。小さい頃から料理が好きだったので、今でもよく台所に立ちます。 Q: ご自身の成功は、徳を心がけた生活による神様からの恩恵だと思われますか? A: 徳というものは、人間の良心の中に存在するものです。人を故意に騙すような悪行をせず、良心に従い、穏やかな状態で仕事をすることができれば、不測の事態を憂慮する必要はありません。粗悪な商品を作れば、必ず市場から淘汰されます。成功というものは70%が自分自身の努力によるものだと思っています。その努力には訪れたチャンスを逃さないということも含まれます。 Q: 数年前Can Thoで御社の製品を食べた消費者が亡くなるという事件がありました。当時は良心の呵責にさいなまれたことと思いますが、会社倒産に対する不安はありましたか? A: 最も心配だったのは会社の名誉や信頼を失うことではなく、原因が私自身の過失なのか、私の管理に落ち度があったのか、ということでした。もし私の過失ならばこの不祥事に対して責任を取ることは当然であり、厳しい立場に立たされたでしょう。私にとっては幸いなことに死亡原因は医療ミスで、弊社の過失ではないことが明らかになりました。 Q: 経営方針である「家族経営」についてお聞かせ下さい。 A: ゆっくりでもいいので一歩一歩確実に階段を上っていきたいと思っています。私は兄弟や親戚がお互いに助け合うことが大切だと考えています。ベトナムと同じように、私の故郷中国では必要な時に親しい者が助け合うという考え方があります。私にとって助けるというのは、お金をあげることではなく、助けられる側もまた金銭的なサポートを望んではいません。大切なことは“魚”を与えるのではなく、魚を“釣る道具”を与えることなのです。 Q: 家族経営で会社を運営するという強い信念をお持ちのようですが、現代的な管理方法を導入し、一層の規模拡大を図るという考えはありませんか? A: 将来、私の子供が経営者の立場になった時、方針を変えるかどうかはわかりません。私自身は今の運営方法を変えるつもりはありませんが、現代的な管理方法を家族経営に応用し、規模を拡大することも可能だと考えています。 Q: 社内で職業訓練教室を開き、職人に対する知識・技術指導にも力をいれておられますが、彼らが技術習得後、独立し、競争相手となることに対する懸念はないのでしょうか? また、親族ではない彼らを育成することは、家族経営の理念に反するようにも思えます。 A: 彼らが知識や技術を習得し、独立することこそが私の目的なのです。一部の経営者は労働者が技術を習得して独立することを、会社の損失だと考えているようですが、私はそれを利益だと捉えています。自分自身に置き換えて考えても、労働者はいつも経営者になりたいという希望を持って働いており、一生雇われの身でいたいとは思わないはずです。私に彼らの夢や目標を奪う権利はありません。彼らが会社を辞めた後、私たちの大切なビジネスパートナーになる可能性も十分にあるのです。私は彼らが独立する際、資金が不充分な場合には材料や設備面でサポートします。その対価として彼らは「Duc Phat」の名の下に営業を展開してくれるのです。これまでに2名が独立し、まもなく数名が独立する予定です。私は弊社から独立する人材はもとより、すでに店舗を持っている人に対しても協力は惜しみません。弊社に協力したいと考える人たちを見捨てることは決してありません。私達は彼らが製品作りの技能を身につけることができるよう条件を整え協力していくのです。 Q: 外国のファーストフード企業が多数ベトナムに進出してきた場合、各社との競合に対する不安はありますか? A: 不安どころか、私は早くそうなって欲しいと願っています。なぜなら私は、彼らに材料、設備、商品を供給できる立場にあるからです。現在もベトナムで営業展開する各国の飲食業関係者向けに供給を行っています。 Q: 彼らがあなたを選ぶことは、大きな自信につながりますね。 A: 私は各国の営業方法について勉強し、彼らがベトナムに進出し、独自の方法で営業展開していくことを理解しています。私は彼らの要求に対し十分な対応ができるように、いつでも準備をしています。 Q: どうして宣伝広告や安売りをしないのでしょうか。 A: 弊社の広告費用は、全て商品の品質向上に投じています。私は資金を広告に費やす代わりに、その資金を設備やより質の高い材料購入に充て、さらに高品質の商品を作ることに努めています。食べて美味しいと思った人が、友人や知人にその美味しさを伝えていくことは、大きな宣伝効果をもたらします。私達の目的は、ゆっくりでも着実に成果を上げていくことです。宣伝活動に資金を投じ、急激に利益が上がるとしても、今は大規模な需要に対応しきれません。大量生産による品質の低下は目に見えています。多くを求めるのではなく、自分の力量を見極めながら、着実に前進していきたいと考えています。
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